表紙 『これって、差別?』  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (名古屋市障害者差別相談センターで受けた相談事例集) 社会福祉法人 名古屋市社会福祉協議会 (名古屋市障害者差別相談センター) (もくじ) (はじめに)  1ページ。 1、障害者差別解消法について。(2ページ)  @、法律で定めていること。  A、不当な差別的取扱いって?     B、合理的配慮の提供って?  C、環境の整備とは? 2、相談事例。 (9つの分野で紹介)。  ○なぜ私に検査結果を説明してくれないの?・・・医療の分野。(3ページ)  ○大会要項にないのに条件付け?・・・福祉サービスの分野。(4ページ)  ○うちの子にだけ、同意しょ?・・・教育の分野。(5ページ)  ○手話通訳者はお客?・・・商品・サービスの分野。(6ページ)  ○可動式テーブル、誰も知らない?・・・商品・サービスの分野。(7ページ)  ○契約してくれないのは、私が精神障害者だから?・・・不動産の分野。(8ページ)  ○ここ、多目的トイレのはずなんですけど?・・・建物・施設の分野。(9ページ)  ○いつも使う駅だから大丈夫と言っているのに?・・・交通の分野。(10ページ)  ○利用できないのは、オストメイトだから?・・・スポーツ・文化の分野。(11ページ)  ○異動してきた上司から暴言?・・・雇用の分野。(12ページ)   3、まとめにかえて。 (13ページ)   ※「障害」の表記について。  本会では、「障がい者」と表記することを原則としていますが、本事例集においては、法律の名称や関連機関名称等を掲載していることもあり、「障害」という漢字表記で統一しました。 P1、 はじめに。  平成28年4月に施行された障害者差別解消法。その4か月後に、名古屋市障害者差別相談センターがオープンしました。オープンから2年半が経過し、平成30年12月末までに受理した相談の実件数は約750件、対応延べ件数は約4,400件となっています。  このうち、障害を理由とした差別に関する相談は、相談実件数が約160件、対応延べ件数は約2,500件となります。このなかには、数日で円満に解決した事例から、数かげつの時間を要した事例まで、さまざまな事例が含まれています。  この事例集を発行するにあたり、これまでに積み上げてきた事例を改めて振り返ると、同じような場面、シチュエーションの相談事例もありましたが、どれひとつ同じ対応というわけにはいきませんでした。それは、相談されるかたの「想い」がそれぞれ違っていたからです。 ・「あの店長を辞めさせろ」と、すごい剣幕で怒鳴りながら相談に来るかた。 ・「変わらないと思うけど、こういう嫌な思いをしたということを相手に伝えてほしい」と、あきらめ気分のかた。 ・「話を聴いてくれてありがとう、少し気持ちが軽くなった」と、涙を流すかた。  など、人それぞれ。  さまざまな障害種別のかたから、幅広い生活場面での相談を受ける中で、できる限りの想像力を働かせて、そのシーンを思いえがきながら、「想い」をうけとめてきたつもりです。また、現場に足を運び、相手となった民間事業者の方への聞き取りを行なってきました。  こうして集めた情報を整理し、大学教授や弁護士、障害当事者、事業者の代表者を定例委員とする「連絡調整会議」の場で、一つひとつの事案について対応を協議し、助言を受けてきました。  場面ごとに関連する法令や各省庁が策定している事業分野別の指針(ガイドライン)を確認し、障害当事者団体や専門機関の協力を仰ぎながら、本センターとしての対応方針を固め、双方に対して建設的な対話を基礎とした解決案を提案してきました。    この事例集を通じて、障害者差別とは何か、共生社会の実現のために何ができるのか、を考えるきっかけとなれば幸いです。 平成31年2月 *掲載した事例は、一部に加工を施し、実際の内容とは若干異なる部分がありますことを申し添えます。けいさい P2、 1、 障害者差別解消法について。 @、法律で定めていること。   ○障害のあるかたへの差別をなくすことで、障害のあるかたもないかたも共に生きる社会をつくることをめざしています。  ○障害者とは、心身の機能の障害がある方で、障害や社会的な障壁(バリア)によって日常生活や社会生活が困難になっているかたです。障害者手帳をもっていないかたも含まれます。  ○「不当な差別的取扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」のふたつのことを定めています。 ○この法律では、直ちに罰則を課すことはありません。(参照P8) A、不当な差別的取扱いって?  障害を理由として、正当な理由なく、サービスの提供を拒否したり、制限したり、条件を付けたりするようなことです。  (具体例)     ○対応の順番を後回しにする。   ○身体障害者補助犬の同伴を拒否する。    B、合理的配慮の提供って?  障害のある方から何らかの配慮を求める意思表明があった場合には、負担になりすぎない範囲で、社会的障壁を取り除くために必要な配慮を行うことです。  (具体例)     ○売り場への案内の要望があった場合は目的の場所に案内する。   ○筆談、読み上げ、手話、点字、拡大文字などのコミュニケーション手段をもちいる。    C、環境の整備とは?  誰もが使いやすいよう設備や建物をバリアフリー化したり、さまざまな情報を誰もが平等に得られるよう機器を導入したり、職員研修を行うことなどです。  行政機関も民間事業者も、合理的配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他必要な環境の整備に努めるもの、とされています。 P3、 2、(相談事例)。 (医療の分野)。 なぜ私に検査結果を説明してくれないの? こんなことがありました。  私は、脳性まひのため、言語障害があります。  姉に付き添ってもらい、病院で検査を受けました。検査結果を聞くために、診察室に入ったところ、医師は姉にばかり説明をし、私の質問にも姉に答えるのです。これって差別じゃないですか? こんな対応をしました。   相談者は、個人が特定されることを希望されなかったため、病院側にこのような相談があったことをお伝えし、医師の特定等は行わず、全職員に対応の改善をお願いしました。  病院側からは、「障害のある方への配慮に関して、職員に周知していたつもりだったが、再発のないように今後気をつける」との回答をいただきました。 解説します。  ご本人を無視して、介助者ばかりに説明するというのは、不当な差別的取扱いになり、ご本人を傷つける行為です。この医師には、「言語障害がある、イコール、理解力がない」という偏見があったのではないでしょうか。  ご本人の意思表明が困難な場合には、家族や介助者等、コミュニケーションを支援する人が補佐して意思表明を行うこともあります。なお、ご本人は意思表明ができなくても、合理的配慮を求めていることが明らかである場合には、適切な配慮を提案する等の対応が望まれます。   ここでワンポイント!  家族や介助者が同席していても、必ずご本人の意思を確認しましょう。  言語障害があると、聞き取りが難しいこともありますが、勝手に推測せず、最後まで話を聞くことが大切です。最後まで聞かずに援助してしまうと、トラブルの原因にもなりかねません。  また、必要以上にていねいに説明すると子ども扱いされたと不快に思うかたもいますので注意しましょう。                       P4、 (福祉サービスの分野)。 大会要項にないのに条件付け? こんなことがありました。  毎年参加している知的障害者対象の水泳大会。私のかよっている施設から、今年も参加者をとりまとめて申し込むとお知らせがありました。  さっそく参加の希望を伝えたところ、施設の支援員さんから「今年は、最後まで足をつかずに泳げる人だけ」と、大会の参加ルールにはない条件を言われてしまいました。  私は長い距離は泳げないので、これは差別だと思い、区役所の福祉課に相談してみました。 こんな対応をしました。   相談を受けた区役所福祉課の職員が、この福祉施設に問い合わせました。  すると、施設の責任者から「参加希望者に、ただ楽しむためだけではなく、粘り強い気持ちやがんばる気持ちをもってほしい!という支援員の思いが先走ってしまいました。不安な思いをさせて申し訳ない。本来の要項に技術的なレベルは求められていないので、そのとおりの募集に改めました」との説明があり、すでに対応されていたことが分かりました。 解説します。  施設の支援員はきっと、利用者の皆さんがさらに意欲的に大会に参加できることを期待して、今年の参加申込書をつくられたのでしょうね。しかし、ご本人にとっては「私が長い距離を泳げないことは知っているはずなので、申し込みをあきらめさせようと差別された!」と感じられたようです。   この件は、足をつかずに泳げることを条件にしているため、障害を理由とした差別とは判断しにくいのですが、ご本人の意向に沿って対応した事例です。  もちろん、障害を理由に条件を付けることは、不当な差別的な取り扱いとなります。 ここでワンポイント!  知的障害や発達障害のある方にとって、あいまいな表現では真意が伝わりにくいことがあります。今回のお知らせでは、たとえば「25メートルの途中で足をついてしまう人も、全力でゴールを目指しましょう」といったストレートな表現であれば誤解はなかったかもしれませんね。 P5、 (教育の分野)。 うちの子にだけ、同意しょ? こんなことがありました。  足に障害のある息子が私立学校を受験し、合格の通知が届きました。けれども入学手続きの提出書類の中に、うちの子にだけ、同意しょが含まれており、提出しなければ入学は認めないとのことでした。  同意しょは、校内での事故に対し学校は一切の責任は負わないこと、介助者が必要なときは保護者が責任をもって確保すること、などが書かれたものでした  親として納得できる内容ではありませんが息子は入学をとても楽しみにしています。 こんな対応をしました。   私立学校の所管省庁である文部科学省に問い合わせをしたところ、「典型的な、教育現場であってはならない不当な差別の可能性がある」とのことでした。ご両親には、センターとして学校に直接状況の確認をした上で、事実であれば同意しょの提出を求めることは法律に反することをお伝えして改善を求める、等の対応ができることをお伝えしました。  ご両親は、「同意しょを求めることがよくないこと、と分かって良かったです」と、この先数年にも渡る学校との関係を考慮され、同意しょは提出するとのことでした。  センターとしてはご両親の希望を尊重し、直接学校に申し入れるのではなく、市内すべての私立学校に法律の啓発パンフレットと本センターが行う「出前講座」(参照 P13)の案内を送付しました。 解説します。  同意しょを提出したとしても、必要に応じて学校に配慮をお願いしたり話し合いを求めることを妨げるものではないと判断されます。ご両親にはこのことをお伝えし、何かあればまたご相談いただくこととしました。  半年過ぎたころ、再度相談者さんにお電話をしてみたところ、子どもさんは毎日楽しく通学しているとのことでした。   ここでワンポイント!  「文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」において、不当な差別的取扱いの具体例として「…略…実習等校外教育活動、にゅう寮、式典参加を拒むことや、これらを拒まないかわりとして正当な理由のない条件をふすこと」と記載されています。 P6、 (商品・サービスの分野)。 手話通訳者はお客? こんなことがありました。  私は聴覚障害があり、手話でコミュニケーションを取ります。趣味で参加しているサークルの忘年会が居酒屋で行われることになり、手話通訳者同伴で忘年会に参加することにしました。しかし、幹事が予約しようとしたところ、お店からは「飲食をしないお客様の席は用意できません」と断られてしまいました。忘年会への参加を楽しみにしていたのですが…。 こんな対応をしました。   お店に状況を確認し、手話通訳について説明したところ、「手話通訳者には飲食が認められていないことを知らなかったので、手話通訳者もお客のひとりとして考えてしまいました」とのことでした。結果として理解がなされ、手話通訳者席も確保することができました。 解説します。  手話通訳者という存在や役割、仕組みが、一般的には浸透していなかった事例です。  愛知県では、「手話言語の普及及び障害の特性に応じたコミュニケーション手段の利用の促進に関する条例」が制定されており、手話も言語のひとつとして普及していくこと、及び障害の特性に応じたコミュニケーション手段の利用の促進が重要とされています。  また、2019年4月に施行される「名古屋市障害のある人もない人も共に生きるための障害者差別解消推進条例」においても、手話言語の普及や障害の特性に応じたコミュニケーション手段の利用の促進について定められています。 ここでワンポイント!  聴覚障害は外見からは障害のあることがわかりにくいために、誤解を受けたり、不利益な目にあったり、災害時などは状況が分からず危険にさらされたりと、社会生活上の不安は尽きません。手話ができなくても、困っている様子のかたにはすすんで身ぶりや筆談・こうわ・くうしょ(※)など、いろいろな手法でコミュニケーションをはかってみることが大切ですね。紙とペンが無くても、タブレット端末をコミュニケーション手段に活用することもできます。  ※こうわには、話し手の口の動きや表情を読み取るどくわなどがあります。くうしょは、空中に文字を書くことで、会話のひとつの方法です。 P7、 (商品・サービスの分野)。 可動式テーブル、誰も知らない? こんなことがありました。  私は電動くるまいすを使っています。  ヘルパーとの外出じ、ランチをしようと新しく建設された大型商業ビル内の飲食店にはいりました。  ところが、ハイテーブルの席しかないために車いすのままでの飲食はできないとにゅうてん拒否されてしまいました。 こんな対応をしました。  飲食店に確認したところ、当日の店舗スタッフの対応についての謝罪と、次のような回答がありました。「実はハイテーブルのうち1台は可動式で、車いすでも利用できる高さにテーブルを低くすることができます。しかし従業員がそのことを知らずに接客していました。すぐに、社員教育を充実させ、周知徹底を図ります!」という内容でした。 解説します。  せっかくの設備を活用できていなかったという事例です。 新しい施設・建物をつくるときのルールはバリアフリー法に定められています。また、障害者差別解消法でも、施設や建物のバリアフリー化や、従業員に必要な研修を行うことを、必要な環境の整備として求めています。障害のある人に対する無関心や誤解など、「意識上のバリア」をなくすことも大切です。 ここでワンポイント!  設備がどれだけ整っていても、それが活用されなければ意味がありません。また、車いすには、使用する人の障害の特性及び生活状況に応じてさまざまな形式のものがあります。車いすの使用者が、いきなり「お手伝いしますよ」と押されて困ってしまった…というエピソードもあります。どんな配慮が必要か、ご本人に確認することが大切です。また、話すときには目の高さを合わせられると良いですね。 P8、 (不動産の分野)。 契約してくれないのは、私が精神障害者だから? こんなことがありました。  私は、10年前からうつ病になり、生活保護を受給するため、引っ越しをする予定です。  不動産会社で物件を紹介してもらい、気に入ったので、契約をすすめていました。アパートの大家さんから、生活保護受給の理由を聞かれ、素直に障害のことをお話ししたところ、「何かあったらいけないから」という理由で、契約を断られてしまいました。 こんな対応をしました。   相談者に、センターが介入することで、必ず契約が可能になるわけではないこと、もし契約できても今後住み続けるのに大家さんと関係が悪くなる可能性があることをご理解いただいたうえで、不動産会社を通じ大家さんに話し合いの場を持つようお願いしました。  ところが、大家さんは拒否の姿勢を崩さず、話し合いに至りませんでした。センターとしては、相談者の了解を得て、不動産会社を通じて差別解消法の啓発をするにとどまりました。 解説します。  大家さんの言う「何かあったらいけない」というのは、入居を拒否する正当な理由にはあたりません。正当な理由は、客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、その目的に照らしてやむを得ないと言える場合です。  事業者が差別をした場合でも、差別解消法では直ちに罰則を科すことはしていません。ただし、繰り返し差別が行われ、改善が期待できない場合などは、その事業を担当している大臣が、事業者に対して報告を求め、助言、指導、勧告ができることになっています。また、名古屋市で新たに制定された「名古屋市障害のある人もない人も共に生きるための障害者差別解消推進条例」では、紛争解決の仕組みとして助言、あっせん、指導、勧告、公表の規定を設けています。(2019年4月施行) ここでワンポイント!  精神障害とは、統合失調症、うつ病、てんかん等のさまざまな精神疾患により、日常生活や社会生活のしづらさを抱える障害です。ストレスに弱く、緊張したり、疲れやすく、人とのコミュニケーションが苦手な人もいます。外見からは気づきにくいため、誤解されたり、障害を理解されないことがあります。適切な治療・服薬により、症状をコントロールでき、まわりの人の理解と支えがあれば、地域で安心して生活していくことができます。 P9、 (建物・施設の分野)。 ここ、多目的トイレのはずなんですけど? こんなことがありました。  私は車いす使用者です。多目的トイレを利用しようとしたところ十分な広さがあるにも関わらず、大きなベビーシートが置いてあるためにはいりづらく、また、可動式の手すりは、固定機能が壊れて使える状態ではありませんでした。その上、洗浄機能付き便座のリモコンにも手が届かず、困ってしまいました。 こんな対応をしました。   まずは、現地調査を行い、相談者のお話のとおりであったことを確認しました。  この多目的トイレの管理者に調査結果を伝え、改善をお願いしました。 解説します。  多目的トイレには、「便ぼう(部屋)の大きさは200p×200p以上、便器・洗面器などを設置したうえでの車いすが回転できる空間(径150p)があるのが望ましい」といった設置基準が定められています。  また、両脇にある手すりと手すりの間の基準は約70pで、便器を中心にして左右35pになっていることが望ましく、片方は車いすから移乗ができるよう可動式であること、とあります。なぜこのように細かく定められているかというと、手すりと便座の間が広すぎても狭すぎても車いすへののりうつりの際にバランスを崩す可能性があるからです。  手すりと同じように、洗浄機能付き便座のリモコンにも設置基準が定められており、「便座に座った状態でボタンを押せる位置、基点(便座の上面先端)から上方400〜550o、後方100〜200oに設置すること」となっています。 ここでワンポイント!  【多目的トイレ基準】は、「国土交通省高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準(通称:バリアフリー法)2.7便じょ・洗面所」の項に記載。  【洗浄機能付き便座のリモコン】は、「日本工業規格(JIS規格)JIS S0026高齢者・障害者配慮設計指針−公共トイレにおける便ぼう内操作部の形状、色、配置及び器具の配置」に記載。                    P10、 (交通の分野)。 いつも使う駅だから大丈夫と言っているのに? こんなことがありました。  視覚障害者です。はくじょうを持って、頻繁に利用する駅の階段を上がっていると、駅員が追いかけてきて「誘導する係を呼んでくるので、ここで待っていてください」と言われました。  「ひとりで大丈夫です」と言うと、「決まりですから」とからだを押しとどめられました。 こんな対応をしました。  相談者の意向に基づいて、鉄道会社に連絡して事情を確認したところ、「マニュアルに沿わない行き過ぎた対応で申し訳ない」という返答でした。啓発や研修を通じての改善をお願いするとともに、本センターが実施する出前講座の受講を提案したところ、市内各駅の駅員を対象とした出前講座が実現しました。 解説します。  他都市で立て続けに発生した視覚障害者のホームからの転落事故を受け、国土交通省から全国の鉄道会社に通知が出ていたタイミングでした。マニュアルでは「誘導が必要ないと言われたときは、状況に応じて可能な限り、乗車まで見守る」ことになっていましたが、駅員は「お客様の安全のために」との想いでとった行動だったのかもしれません。  しかし、「誘導してください」というご本人からの意思表明がない中で、強引に行かせないようにしたことは、返って障害のないかたには付けない条件付け、つまり「障害を理由とした不当な差別的取扱い」をしてしまったようにも映ります。せっかくの善意も、ときと場合、人によってはおせっかいになってしまうこともあります。 ここでワンポイント!  視覚障害には、全盲のほか、弱視、視野狭窄があります。  また、同じかたでも周囲の明るさ(昼夜)などによって、見えかたが変化することもあるため、それぞれ配慮してほしい内容は違ってきます。  だからこそ、ご本人に「お話を聴く」という姿勢が大切なんですね。 P11、 (スポーツ・文化の分野)。 利用できないのは、オストメイトだから? こんなことがありました。  数年前の病気でストーマ装具を装着するオストメイト(人工肛門等)となりました。 健康のために、近くのスポーツジムに入会しようとしたところ、「オストメイトのかたは、ヨガやエアロビクスなどのスタジオの利用は可能ですが、プールや浴槽を利用することはできません」と施設の利用を制限されてしまいました。 こんな対応をしました。  厚生労働省や公益社団法人日本オストミー協会が作成しているチラシやパンフレットを参考に、スポーツジムに対して、「装具を適切に取り扱えば、便・尿などの排泄ぶつが漏れたりすることもなく、衛生上の問題はありません」とお伝えしました。  その結果、スポーツジムは相談者の主治医を訪問するなど、前向きに対応する姿勢を示したのですが、その間に相談者のかたが体調を崩されたため入会には至りませんでした。 解説します。  オストメイトは、外見では分かりづらい内部障害のひとつです。適切に管理していれば、日常生活上の支障はありません。しかし、慣行や観念(偏見)といった周囲の人たちの社会的障壁により、公衆浴場等での利用の制限につながることがあります。  厚生労働省の浴場業の振興指針には、「オストメイト及び入浴ぎを着用した乳がん患者等についても、衛生上問題ない形で入浴サービスを楽しんでいただくことは可能であり、その点を正しく認識し、適切に対処することが必要である」と障害者への配慮事項として明記されています。 ここでワンポイント!  ヘルプマークは、内部障害や難病のかたなど、配慮を必要としていることが外見からは分かりにくいかたが周囲のかたからの配慮を得やすくするためにつくられました。このマークを身につけて、戸惑っているかたを見かけたら、「何かお困りですか?」の優しいひと声をお願いします。 P12、 (雇用の分野)。 異動してきた上司から暴言? こんなことがありました。  愛護手帳(療育手帳)を所有しています。施設の清掃員として採用されました。特に問題もなく勤務していましたが、人事異動で配属となった直属の上司から「また、マルマルか!」や「マルマルの方がマシだ」といった暴言を受け、雇用契約には含まれていない屋外作業(草むしりや洗車作業)などを命じられるようになりました。  この結果、精神的に不安定になり、膝も痛めてしまい、退職しました。この会社に復職したいわけではないのですが、この上司の言動は明らかに差別だと思います。次の被害者が出る前に、このことを会社に申し出たいと思っていますが、どうすればいいのでしょうか?   こんな対応をしました。  会社に対して、直接、申し出る方法の他に、「労働契約の観点から、ハローワークなどの専門機関に相談してから対応する方法も考えられます」と助言しました。また、相談の内容からは、「使用者による心理的虐待」が疑われたことから、相談者の同意を得た上で、障害者虐待相談センターの職員に同席してもらいました。  当初は、かなりの興奮状態でしたが、徐々に落ち着かれ、「話を聞いてくれてありがとう。会社に申し出るかどうかは、もう一度自分で考えてみます」と穏やかに相談を終えました。   解説します。  雇用や労働の場面における障害を理由とする差別に関する相談については、差別解消法第13条に基づいて、障害者雇用促進法の範疇で対応することになっています。相談の窓口はハローワークとなっています。 ここでワンポイント!  ご本人は気付いていなくても、差別を超えて虐待レベルの相談もあります。虐待の恐れについては、常に意識して相談を受けています。  ちなみに、民間事業者の合理的配慮については、差別解消法では「努力義務」となっていますが、障害者雇用促進法では「義務」になっています。(平成31年2月現在) P13、 3、まとめにかえて。  事例集を通してお伝えしたかったことは、一つひとつのご相談に、一つひとつのオーダーメイドの対応をさせていただいてきた、ということです。本センターとしては、未来志向の建設的な話し合いとなるよう調整を図ってまいりました。相互に理解を深めていくことは、共生社会の第一歩になると考えています。  人は誰もが障害を有することになる可能性があります。障害のある人とない人を、分け隔てられるものではありません。この小しが、誰もがお互いを尊重し、理解し合う気持ちを持つ、ということを考えるきっかけになれば幸いです。 ご相談ください。・・・(センターのご案内)・・・ (営業日)、月曜日から金曜日、第3土曜日(祝日・年末年始を除く) (営業時間)、9時から17時まで(水曜日は20時まで) (住所)、〒462-8558名古屋市北区清水四丁目17番1号     名古屋市総合社会福祉会館5階 (電話)、(052)856−8181 (ファックス)、(052)919−7585 (Eメールアドレス)、 inclu@nagoya-sabetsusoudan.jp (ホームページアドレス)、 http://nagoya-sabetsusoudan.jp  名古屋市障害者差別相談センターは、障害のある人やそのご家族、事業者の皆様から、障害者差別に関する相談を受け、関係機関と連携しながら、相談内容にかかわる関係者間の調整などを行い差別の解消をはかる専門機関です。    (出前講座)。  市民の皆さんや市内事業所の方々に「障害者差別解消法」に関する知識や理解を深めていただくため、センター職員が皆さんのところへ出掛けてお話しさせていただく「出前講座」も実施しています。どうぞお気軽にお問い合わせください。 裏表紙、 平成31年2月。 相談事例集。 『これって、差別?』 発行:社会福祉法人 名古屋市社会福祉協議会 (名古屋市障害者差別相談センター)  センターホームページ(http://nagoya-sabetsusoudan.jp)からダウンロードできます。 この冊子は、古紙パルプをふくむ再生しを使用しています。